〜Rich Ryanが語るパフォーマンス向上の核心+心拍数活用ガイド〜
もしHYROXにおいてスレッショルド(閾値)トレーニングをやっていないなら、あなたはすでに置いていかれているかもしれません。
持久系スポーツの世界では、このトレーニング手法は長年知られてきました。そして今、HYROXが「ハイエンド持久系スポーツ」であることが明らかになり、同じ原則を取り入れることで確実に結果を出すことができます。
本記事では、3度のHYROXワールドチャンピオンシップ出場経験を持ち、Proカテゴリーで54分20秒の自己ベストを誇るRich Ryanが解説する、HYROX向けスレッショルドトレーニングの理論と実践方法、さらに心拍数での設定方法を合わせて解説します。
スレッショルドトレーニングとは?
スレッショルドは「乳酸閾値」「無酸素性閾値(VT2)」など複数の用語が使われますが、ここでは細かい定義を省き、“ある強度を長く維持できる限界” と捉えます。
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速すぎると 長く続けられない
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遅すぎると 十分な刺激が入らない
生理学的には、身体が処理できる以上の乳酸が溜まり始めるラインを指します。このラインを少し下回るペースで長時間走れるようになると、疲労耐性が向上し、持久力とスピードの両方が伸びます。
強度の目安(RPEベース)
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主観的強度(RPE):10段階中8
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持続可能時間:45〜75分程度
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感覚的には:「きついけど続けられる」ペース
心拍数での閾値設定ガイド
Rich Ryanはゾーン4下あたりと述べていますが、ここでは他の信頼できる研究・方法を組み合わせて、より精密に設定する方法を紹介します。
1. 最大心拍数比からの推定
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閾値HR ≈ 最大HR × 0.85〜0.90
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例:最大HRが190 bpm → 閾値 ≈ 162〜171 bpm
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参考:Tanaka et al., 2001, Age-predicted maximal heart rate revisited
2. Karvonen法(予備心拍数)
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閾値HR ≈ 安静HR + 0.80 \times (最大HR – 安静HR)
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多くの研究で乳酸閾値は予備心拍数の75〜85%に一致
3. Conconi Test(非侵襲)
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徐々に速度を上げながら心拍数を測定し、心拍上昇のカーブが折れ曲がる点を閾値とする方法
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参考:Conconi et al., 1982, Journal of Applied Physiology
4. 実践のコツ(HYROX特化)
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HYROX本番では平均心拍が閾値±3 bpmに張り付く傾向
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練習では閾値HR±2〜3 bpmをターゲットゾーンとして設定
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ステーションワーク後は一時的に心拍が高くなるため、ラン再開時に30〜60秒で落ち着くことを想定してペース配分
実践方法:基本の5:1ルール
持久系トレーニングでよく使われるのが**「運動5分:休憩1分」**の比率。
休憩時間がペース調整の基準になり、
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休憩が足りないと感じる → 速すぎ
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余裕がありすぎる → 遅すぎ
という判断ができます。
マシンとランの違い
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ランニング:ボリューム多めに
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マシン(スキーERG、ロー、アサルトバイクなど):筋持久力や技術が制限要因になりやすいので、1〜3分程度の短め設定が適切
HYROXはランが主体の競技なので、ランニング量は優先的に確保すべきです。
HYROX特有の工夫
通常のランニング種目では、レース中ずっと閾値ペースで走ることはあまりありません。しかしHYROXではほぼ全編が閾値領域になるため、より長い時間その強度に慣れる必要があります。
推奨アプローチ
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インターバルよりも長時間の持続走を重視
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最低でも1セット10分から開始
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ラン+ステーションを組み合わせ、20〜50分間ずっと閾値強度で動き続ける
最初の10〜12分は徐々にペースを上げ、そこから「閾値」に乗せるのが理想。
トレーニング頻度と期間
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週1〜2回が目安
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最初は短め(20〜30分)から始め、5分ずつ延長
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最終的には週合計30〜100分間を閾値で過ごせるように
まとめ
HYROXで結果を出すには、「長時間閾値に留まる能力」が必須です。
インターバルは強度維持に役立ちますが、HYROX特有の“座り込みたくなる不快感”に耐え続ける練習が欠かせません。
心拍数を指標にすれば、強度を数値で管理でき、疲労の蓄積やオーバーペースも防げます。
Rich Ryanも「もし自分のトレーニングを一つに絞るなら、迷わずスレッショルドを選ぶ」と断言しています。あなたのプログラムにも、ぜひ取り入れてみてください。